ACTをつかったWHOのストレスを感じたらやるべきことが素晴らしかった件

アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)1について16年前にかかれた定番書籍、ハピネストラップ(旧:幸福になりたいのなら幸福になろうとしてはいけない)を半分くらい書き直して大幅改定された第2版の和訳が2023/03に出たので書籍購入して読みました.

定本 ハピネス・トラップ - マインドフルに生きたい人のための心理療法ACT入門, ラス・ハリス(2023)

読み終わった後に読書感想文を書こうと思いつつ放置していたけれども, 先週ACTに関わるとてもよい資料を発見して気持ち高まったので, この資料の紹介をします.

さらに, ハピネストラップの書籍の内容というよりは, 半年間ACTを継続してどう感じたかのポエムを書きます. タイトルの幸福の罠については過去記事に譲る2.

Doing What Matters in Times of Stress - WHO(2020)

今回取り上げたいのはこの資料. WHOが難民キャンプ生活をしている人たちに向けたストレス対処のガイドラインをまとめたもの. この資料の監修がなんと, ラス・ハリスさん.

最も心が動いたのは難民キャンプですらACTは効果が会った話

ハピネストラップの書籍の第10章に, 2015年からラス・ラリスさんがWHOに難民キャンプ生活を覆う巨大なストレスに対処するために, ACTを用いたプログラムを作成するように依頼されたエピソードがあった.

難民キャンプの人々は恐ろしい苦難と貧困の中を生き延びようとしている. 多くはひどいトラウマを抱えてうつ状態である.

  • ごちそうを食べること
  • テントではなく家で暮らすこと
  • お金を稼ぐこと
  • 車を持つこと

難民キャンプの人々が喉から手が出るようなものは大抵の場合, 達成不可能な行動目標だ. しかし, この状況においてですら, 自分の価値につながるによって生きる勇気が湧くというフィールドワーク. その取り組みは, 大幅なストレス改善が認められたと2020年にまとめられた.

このエピソードが, 書籍を読んで一番気になっていたのだが, 元になる資料がなかなかみつからなかった. 日本語では情報がなかったから検索に引っかからなかったのかも. たまたま5chの掲示板を覗いたらリンクがあって, 発見した. ずっと気になっていた資料なのでとても嬉しかった.

ACTを日本語で入門するための最高の資料はこれ

さらに嬉しいことに, これはWHOが日本語訳にして日本語バージョンにしてイラストガイドを公開していた. これはまた素晴らしい資料だ.

なぜならば, 想定している資料の読者が難民キャンプ生活の人たちということもあり, とてもわかりやすい. そもそもACTの名前が出てこない. だからこそ, 発見できなかったのかも.

  • ACTのロジックがとてもシンプルにまとめられている.
  • イラストマンガ付きだ.
  • 難しい理論や専門用語は優しい言葉で置き換えられている.
  • 英語だが動画もYoutubeにはある.
  • 祈りやマインドフルネスなど宗教色やスピリチュアリズムは一切なし.

辛いストレスのなか, ハピネストラップの書籍を読もうとしても400ページくらいある書籍を読むのは不可能に近い. これは, なにも難民キャンプの人たちに限らない. ストレスをうけているととても疲れている. 本なんて読めない. でもこのようなシンプルな内容ならば頭に入る.

ACTのエッセンスは5つだけ

ここからは資料をベースにACTのエッセンスを紹介. というよりも解説するより資料をみたほうがわかりやすいので, ここではハピネストラップの書籍や一般的な用語と資料の用語の対応付けをしていく.

全部で5章からなる. そして章ごとにツールという名でストレス対処法が紹介される. ACTは, プラグマティズム, つまり現実の日常生活で使えるかどうかを重視している.

  • グラウンディング
  • フックはずし
  • 価値に沿って行動する
  • 優しくあること
  • 場所作り

以下, ハピネストラップの説明と照らし合わせて簡単に紹介をする.

グラウンディング

まず, 思考や感情に囚われる状態として「フックされる」という概念が説明される. これはハピネストラップの書籍では「囚われている」とか「捕まっている」. これはACTの専門用語では同一化, 認知的フュージョンまたはフュージョンと呼ばれている. どうも日本人だとフュージョンといわれるとドラゴンボールを想像してしまう.

フックという表現がよいのは, それが操り人形のイラストとして表現されているところ. これがよい. 思考や感情はわたしの行動をフックする. さらに, (わたしはハピネストラップでこれだけ頭に入れればいいと思っているが), ACTの前進行動/後退行動のモデルがフックされた操り人形でマンガで表現される(資料の訳が微妙かも, 進ムーブと逸ムーブ).

グラウンディングとは, 急性ストレス用のツール. 感情の嵐や激しい感情に襲われたとき用のツール. 具体的には, 呼吸, 身体感覚, 五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)を意識することによって, 今ここを意識する.

これは, Connect with present, 書籍だと「碇を下ろす」, ACTフレームワークとして紹介されている. ただやはり資料のほうがわかりやすい. 嵐を木の木陰に避難してやり過ごすというメタファーがよい.

そして次の章ではフック外しという表現で, 脱フュージョンの手法が紹介される.

フックはずし

いわゆる, 脱フュージョン, デフュージョン, 脱同一化, デタッチド・マインドフルネス. グラウンディングは急性ストレス用ツールだった. フックはずしはもう少し弱いストレスだけど慢性的に現れるストレス, 反芻思考むけツール.

エッセンスは2ステップ.

  1. 気づく
  2. 名付ける

思考や感情に気づいたらそれに名前をつける. 怒りが湧いた, お腹が空いた, 苦しい考えがきた. ACTのよいところは多様なメタファーでテクニックを紹介する. ただ, たくさんあるものの, 本質は気づいて名付けて自分と切り離す.

価値に沿って行動する

いわゆる, コミット, コミットメント. ここは, 価値という, 日常生活でよくつかっているが改めて考えると難しい概念を事例とともに説明している.

また, 変えられない現実は諦める手法も紹介される. 具体的には, フックはずし, グラウンディング, ニーバーの祈り3.

価値に従って行動する, コミットの部分は, 個人的には自分の価値を特定するのが時間がかかるので, 知識としてインストールしたからといって即時次の日から実践をするのは難しい. しかし, まずは価値を特定するということは時間がかかるということをアクセプタンスして, ある程度の時間をかけて考えようとコミットメントするところからだと思う. 短期的な解決を諦める. 価値観の分析については, ネット上にはいろんな方法があるが, 大事なことは時間を確保することだとともう. いちおうわたしのツェッテルカステンをつかった方法も紹介する4.

優しくあること

優しさの武器が紹介される. 事例として自己否定をしている状況をフックされていると定義して, そこに今まで学んだグラウンディングやフックはずし戦略を仕掛けた後に, やさしさをぶつけて自分を責める思考をやっつける.

自分への優しさ, 他人への優しさ. これは慈悲という言葉や, セルフコンパッションとして知られている. 慈悲だと仏教色がつよく, そうでなくてもは祈りスピリチュアル色がつよい. ただ, 優しさ, 祈り, 感謝という行為が自己否定を沈静化させるのには効果抜群という科学的事実もある. 資料では, スピリチュアルや宗教な色がないところはよい.

どうだろう, グラウンディングもフックはずしも優しさも, これはスキル, 技芸だ. 頭では理解できてもすぐには実践できない. しかし練習すればするほどにうまくなる. このことについて, ハピネストラップの書籍の冒頭で書かれている.

練習こそ全て.

場所作り

最後が場所作りというテクニック. これはエクスパンションとか, TAMEフレームワークとして書籍では書かれている.

これは感情における「苦しみは追い払ってもゾンビのように蘇る」という性質に対処するもの. 苦しみは無視しても, ヤケになって振り払っても, いつまでも追いかけてくる. なので, その存在を認め, 許し, 居場所をつくっておいておく(アクセプタンス). この考えはACT特有な気がする. ほかのメソドロジーではあまり見かけない方法だ.

ACTを日常生活実践でおもったこと

ACTの書籍を読み終わって数ヶ月, 実際には書籍をよむ2年前からなんとなくは知っていた. さらに, ACT以外も認知行動療法や座禅やヨガやMBSRなど, 雑食的にいろいろやってきた. そこで思ったことをいくつか記録する.

名言: 今を生きよ、心を開け、今なすべきことをなせ - ラス・ハリス

p281, 第二章最終章. これはACTの心理モデルの本質を端的に表している.

  • 今を生きよ: アウェアネス
  • 心を開け: アクセプタンス
  • 今なすべきことをなせ: コミットメント

今に集中して心を開く(思考や感情から逃れ, それらが行き来することを許す)能力が高まると, 思考や感情に囚われて後退行動を防げる. 自分にとって大切なことをするほどに人生は豊かになる.

この言葉を日々心に止めて生きている.

ACTとはフランクル心理学の系譜か

わたしがACTに惹かれるのはなぜだろう?それは価値に従って行動するという点だ. この価値を生きるという考えに惹かれる理由は, 大学生のときにヴィクトール・フランクルの「夜と霧」5という書籍を読んだことにある. 心理学分野にそこまで明るくないので今この系譜がどのような影響を現在に与えているのかわからない.

しかしACTとフランクル心理学の関連をつよく感じたのは, ハピネストラップの最終章のテーマが, 夜と霧だったことだった. ラス・ラリスさんは最終章にテーマをもってきて, さらにフランクルさんの言葉を引用して, たいへん魂が震えたと書いている. ラス・ハリスさんはACTの創始者というよりは書籍ベストセラーで有名人みたいな感じだが, このハピネストラップの最終章に夜と霧がでてきたというところに価値に生きる系譜をみた.

それは, さらに遡ればニーチェやワーグナーがいて, さらにさらに遡れば初期ギリシャ哲学につながり, 現代では鬼滅の煉獄さん6のような, 生きるから生きるみたいな精神だ. いろいろと知識がつながるところがある.

ACTの脱フュージョンとは人生ゲーム化の練習

ACTにおける脱フュージョン, 現実をテレビのスクリーンのように眺める感覚. これとゲーム化, ゲーミフィケーションの相性がとてもよいように感じる. 脱フュージョンが上達すればこの世が仮想現実であるという認識が強まる, いいかえれば脱フュージョンとはゲーム化である.

わたしは都市伝説のシミュレーション仮説も好きだ. この世は仮想現実であり, 単なるゲームにすぎない. じゃあそれをいかにしてゲーミフィケーションを活かして乗り切るか. そのためのはじめの一歩となるメンタル魔法が脱フュージョンだ. これは技術であり習得可能な魔法.

そして, じゃあ逆に, フュージョン状態とはなんだ? それは, 日常生活である. 脱フュージョンとは, ゲームの一時中断にすぎない.

ACTは自己流でアレンジできるからこそ面白い

ACTのアクセプタンスはいろんな方法が紹介される. それは, ACT独自のものもあれば, マインドフルネスやセルフコンパッションからの借り物のテクニックまで, 結構いろいろある. それを, フレームワークのようなもので枠組みを提示している場合もある(ACE, TAME).特徴としてメタファー, イメージによるたとえがおおく, 逆にいえばスピリチュアルなものは少ない. そして他のセラピーの手法も, 使えるものはなんでもつかうプラグラマティズムの精神.

わたしがACTが面白く, また継続できるのは, 自分だけのACTっぽいテクニックを自己流で生み出して実践できるところ. 工夫の余地がたくさんある. いくつか紹介する.

君だけのモンスター図鑑を完成させろ!

たとえば, 思考や感情がきたとき, アニメのキャラクターのメタファーをつかう.

  • ぶりぶりざえもん
  • キタキタオヤジ
  • スッパマン

これらのむさ苦しいジジイの力を活用する. さらに, これらのストレスモンスターをモンスターボールで捕まえるメタファーをつかう. わたしには, 道路を歩いているとポケモンがみえるので, それを妄想の中のモンスターボールで捕まえる7. これは, 思考に名前をつけて居場所を確保するACTのテクニックの応用.

さらに, 苦悩について考えてその特徴, 長所と短所, 効果的な技などなど, 心のモンスターについての知識をツェッテルカステンを利用して性質を観察して記録していく. これはもはやポケモン図鑑をつくっているようなものなのだ. 強みの収集心を活かすこともできる.

なぜポケモンをプレイするのは楽しいのに現実は苦しいのだろう. 苦しみと友達になればいいんだ, 君だけのモンスター図鑑を完成させろ!

リアル全集中霞の呼吸

最近, デイリーヴィパッサナー瞑想をしすぎた結果, 日常生活をしていても勝手にヴィパッサナー瞑想モードに突入することがある. 勝手にというのは, マインドレスでありマインドフルとは真逆である. これは抑うつな感情と反芻思考からの防衛回避行動しての離人感がでていると解釈している. ただ, これについては抑うつで落ち込んでいるよりも離人的に意識がさまよっているほうがまだましな気がしてあまりしてない.

離人的な感覚も, これは脱フュージョンのようなものだ, デタッチド・マインドフルネス. これを意図せずにおこなうと, なんだか霞の世界に迷い込んだようである. 呼吸に集中しながら意図的にデタッチド・マインドフルネスを起動すると, もはやそれは鬼滅の刃における全集中霞の呼吸8にほかならない.

ととのい瞑想 aka 湯けむりの呼吸

サ活でととのうことは快楽だ, よくきくことだ. しかし, グラウンディングの感覚を普段から練習していると, その感覚をよりブーストできる.

汗の吹き出る感覚, そこから外気浴で身体が乾いていく感覚, 浴室のお湯が流れる音や風の音につながる. これはグラウンディングやコネクトそのものだ.

サウナのととのいの快楽を知っている人は, 瞑想を知らないことはもったいないと思う. マインドフルな感覚で快楽のエクスタシーのトリップは加速する. さらに快楽突入は練習によってうまくなる. 練習が全て. わたしはこれを, ととのい瞑想または湯けむりの呼吸とよんでいる.

筋トレ瞑想

筋トレとヨガとボディスキャン瞑想の習慣を同時にやっている人は, これらの関係性に気づいている人はおおいのではないだろうか? 意識を身体の感覚に集中する. このことによって今ここに集中できる. これはACTではコネクト.

これはヨガだろうが筋トレだろうが変わらない. ベンチプレスをしたら大胸筋の負荷をマインドフルに観察する. これは筋トレではマッスルマインドコネクションと呼ばれている. わたしはマインドフル瞑想の延長で筋トレをしている.


  1. アクセプタンス&コミットメント・セラピー - Wikipedia ↩︎

  2. 🖊資本主義的幸福の神話の崩壊と超人について - coursera: The Scinece of Well-Beingの感想 | Futurismo ↩︎

  3. 過去記事で詳しく扱っている. 神降臨?!ChatGPTで筆記開示からの認知行動療法を自動化してみた | Futurismo ↩︎

  4. ツッテルカステンの方法はメモ魔でデジタルメモをとるのが好きな人にはフィットするが万人には微妙だとも思う. そしていろいろとメモに書き出す作業は時間もかかる. 🖊ツェッテルカステンで自己分析してみた - アイデンティティクライシスを経験している青年へ | Futurismo ↩︎

  5. 夜と霧 ヴィクトール・フランクル, この書籍はとても思い出深く, わたしは大学生のころは心理学の書籍はそこまで読まなかったものの, フランクルの書籍およびロゴテラピー関連だけを図書館にあるものは全て借りて図書館の隅で読んでいた. さらにわたしが感銘を受けたのは「ユーモアもまた自己維持のための戦いにおける心の武器である」いうユーモアの意志があるものは絶望の中でも強制収容所で生き残ったというエピソードを読んで落語研究会に入った. ↩︎

  6. 【5金スペシャル映画特集Part2】『鬼滅の刃』が突きつける人間の本来あるべき姿とは - YouTube, 宮台真司さんの鬼滅の刃解説がおもしろい. t15あたりから. ↩︎

  7. [ポケットモンスターOP]1・2・3/After the Rain(そらる×まふまふ) - YouTubeをきいてたら思いついた. ↩︎

  8. テレビアニメ「鬼滅の刃」刀鍛冶の里編 新規キャラクターイラスト解禁映像【時透無一郎】 - YouTube ↩︎